働き方改革は骨抜きに?「宿日直許可」の乱発がもたらす問題

  • 2025年5月14日
  • 2025年5月14日
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2017年にスタートした「働き方改革」は、日本全体の労働環境を見直す大きな転換点として注目されました。一方、過酷な勤務環境が問題視されていた医師については、7年間の猶予期間が設けられ、2024年に本格導入されることとなっていました。

ところが、現状は理想から大きくかけ離れています。むしろ、「改革」が逆効果になっている側面さえ見受けられます。


宿日直許可の乱発という現実

2024年に入ってから、全国の労働基準監督署(労基署)が医療機関に対し「宿日直許可」を大量に出しているという報告が相次いでいます。この許可は、本来であれば「ほとんど労働を要しない」夜勤・当直に限って認められるものであり、通常業務を伴うものではありません。しかしながら、2024年に明らかに不自然な増え方をしたうえで、宿日直許可を受ける病院は9割にのぼりました。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/366470

実際には、通常の業務が行われているにもかかわらず、宿日直許可が出されているケースが多数確認されています。これは、働き方改革による労働時間の規制を回避するための「抜け道」として利用されている疑いが強く、制度の根幹を揺るがす事態です。

https://www.asahi.com/articles/photo/AS20230917002183.html

時間外手当も労災認定もない危険な現場

問題は、宿日直許可が不適切に出されることによって、医師が本来受け取るべき時間外手当が支払われないだけではありません。

さらに深刻なのは、労災の認定が難しくなることです。宿日直と認定されている時間帯の勤務で過労や事故が発生しても、それが「労働」としてカウントされなければ、労災が否認される危険があるのです。

実際に、そのようなケースでしばし係争が報道されています。

 この医師は50代の男性で、2018年11月にくも膜下出血を発症し、現在も入院している。19年10月、「月100時間を超える長時間労働をつづけた結果だ」として、労基署に労災を申請した。

 男性側は「宿直中も心身の過重な負荷をともなう診療をしていた」と主張している。

 代理人弁護士によると、例えば18年10月に宿直した際、午前0時過ぎに入院患者の急変で呼ばれ、午前2時15分に死亡を確認。家族への説明、死亡診断書の作成、お見送りなどで一睡もできないまま、翌日も通常通り勤務したという。

 労災申請に対して労基署は、男性医師の病気は業務と関係ないと判断した一方、月3~4回おこなっていた宿直について、午後5時15分~翌午前8時半までのうち、仮眠6時間を除く9時間15分は一律にすべて労働時間だったと認めた。

 病院側も、仮眠以外の時間は労働時間だったと認めているという。

 一方、これを不服とした審査請求に対し、厚労省東京労働局の審査官は、宿直は「ほとんど労働する必要のない勤務だった」と判断し、15時間15分すべてを「労働時間ゼロ」とした。根拠の一つとして、病院が宿日直許可を得ていることを挙げたという。

https://www.asahi.com/articles/ASR9Q5F9DR9QUTFL00P.html

過重労働で医療を支えてきた医師に対し、宿日直許可を理由に労災を認めないことは、医師に対する裏切りと言わざるを得ません。


睡眠不足=医療事故のリスク

医師の睡眠不足は、患者の命に直結する重大な問題です。複数の研究により、睡眠不足は飲酒と同程度に判断力を低下させることが明らかになっています。つまり、眠らずに働く医師は、酒に酔った状態で手術や診療をしているのと同じ危険を伴うのです。

ある大学の研究で行われた睡眠不足と安全性に関する調査でも、24時間勤務のシフトが組まれた医学実習生の方が、16時間勤務のシフトが組まれた実習生よりも、重大な過ちを犯す可能性は36%も高く、さらに患者の死につながる過失を犯す確率が300%高くなることが報告されました(※2)。

命を預かる現場において、こうした「擬似的な違法労働」が容認されている現実は、断じて見過ごせません。


本来の改革の理念を取り戻すために

働き方改革の目的は、すべての労働者の健康と安全を守ることにあります。制度の本来の趣旨を踏まえ、医療現場における「宿日直許可」の在り方を見直す必要があります。

医療の質を守るために、そして何より患者と医師自身の命を守るために──。制度の運用が現場の実態に即しているか、今こそ厳しく問われなければなりません。

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